
ワインのヴィンテージ
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ワインに詳しい人が、ワインについて「当たり年」とか「良くない年」と言っているのをお聞きになられたことがあるでしょう。ワインのラベルにはヴィンテージ(収穫年)が記載されています。これはそのワインを造るために使われたブドウを収穫した年のことです。
ご存知のようにワインは農産物ですから、その年の天候によって原材料であるブドウの出来具合が大きく変わります。 たとえば、降雨量、それも生育期のなかでどの時期にどのくらい降ったのかということ、また日照量は年間でどの程度であったか、そして芽を吹く春先の気温、夏の暑さ、収穫前の初秋の気温の下がり方など、いずれもブドウの成熟度に大きく関わり、ワインの味を決める大きな要因になります。
醸造家は、それまでの経験と豊富な知識によって、その年のブドウの出来に合った醸造方法を決定していくのです。人気が高まったカリフォルニアの一部などでは、ほとんど変わらない天候により、ヴィンテージ差のないワインが望めますが、一般的にヨーロッパのワインはヴィンテージによる味わいの差が大きく出ています。インターネットの普及によりワイン産地からの天候便りが発信されていますが、まだまだ情報を追いかけることは容易くなく、また天候の情報を得たところでその年のブドウがどのようなワインになるのかは判断しにくいものです。
では、どのようにしてヴィンテージの良し悪しを見極めたらよいのでしょうか。 このような時、役立つのがヴィンテージ・チャートです。専門家の分析により、過去のヴィンテージについて産地ごとに星の数や点数で評価されている表なのです。 星の数が多いほどその味わいが保障されており、安心して購入または飲むことのできる目安を記載しています。 これはワインを購入する際、参考にするとよいでしょう。 味わいだけでなく、当然ながら良い年のワインは生産者から出される価格が最初から高めですし、私たちがレストランでオーダーする価格もそれに比例します。
逆に、あまり良くなかった年のワインは、名のとおった銘醸ワインも比較的手頃な価格で販売されることが多く、 またそのワインが飲み頃に達するまでの時間もそう長くかからないため、私たちにとっては飲みやすいワインということにもなります。私がワイナリーを訪ねるときによく行うテイスティングに「バーティカル・テイスティング」という試飲法があります。これは同銘柄のワインをヴィンテージ違いで過去に遡ってテイスティングすることで、異なるヴィンテージ数種類を同時にテイスティングします。
こうすることによりヴィンテージによって味わいがどのように違うのか、またどの位の年数の経過によって味がどのように変化していくのかを知ることができます。同様な意味で、同銘柄のワインを違うヴィンテージで収集する愛好家がいます。このようなヴィンテージのワインが何本か揃ったときにグループで集まって楽しみます。
専門家でなくとも気に入った銘柄のワインはこのようにすると、より深い楽しみが得られることでしょう。しかしどのような年であっても生産者たちはブドウを育てるのに手を抜くことはなく、限りない努力と想像もつかないほど地味な作業の中でブドウの生育を見守っているのです。悪い年だからといって決してワインの魅力が損なわれるものではありません。専門家でなければヴィンテージの差は「年による個性の違い」と解釈しても構わないでしょう。
オールド・ヴィンテージ・ワインの魅力
年数を経過したワインは、味わいに微妙な変化が出て、私たちの舌と五感を非常に楽しませるものです。ではどのようなワインが熟成に向き、また美味しくなるのかといったことを話しましょう。一般的にワインが長期間、瓶の中で熟成される場合、いくつかの条件がありますが最も必要だとされている要素が上質なタンニンです。そういう意味で赤ワインの方が長期熟成に向いているといえるでしょう。
また酸味もワインの質を長く保つために必要です。タンニンが若いうちは、非常に硬質で 収斂味がありますがこれは年数とともに柔らかくなるものです。同時に若い間、フレッシュだった酸味も落ち着いてきてまろやかな味わいになる手助けをします。若い間はブドウの持つ本来の味や香りが全面的に出ていますが、熟成すると味や風味はさらに複雑になり 中にはカカオやチョコレート、葉巻などを思わせる香りが出てくる場合もあります。このように年数の経過とともに、ワインの持つ果実味と酸味、タンニンが互いにバランスをとり合いながら、素晴らしい味わいの調和をかもし出すのです。
グラン・ヴァン(極上銘柄ワイン)でなおかつ収穫年の素晴らしい年のワインは、こうした魅力を放つようになるまでにそれなりの長い熟成を必要としますので、一般的に言われている「飲みごろ」になるまで待ったほうが価値があるのです。
また、オールド・ヴィンテージ・ワインの持つ魅力のもうひとつは、私たちの思い出の年と重ね合わせることができるという点です。自分の誕生年のワインを探す、また子供の生まれ年のワインを取っておき、成人になった時、家族でお祝いしたいといったケースなどはよく耳にしますし、社長に就任されたお祝いに、その方が入社された年のワインを探してほしいと依頼を受けたこともあります。どんな人にも、その人生において「忘れがたい年」があるでしょう。ワインもまた私たちと共に時代を生きているのです。