
ヴァルポリチェッラと鰻
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土用の丑の日に鰻をたべる、という習慣がいつどのように始まったかは諸説ありますが、平賀源内が鰻屋からの相談を受け、「本日丑の日」と店先にはればよい、とすすめたことが功を成し、それが他の鰻屋にも定着し、庶民の習慣となったというものが一般的です。暑い時期を乗り切るために栄養価の高い鰻をたべるとよい、ということですね。
鰻は実にビタミンが豊富な食品です。目によいビタミンA、成長促進用のあるビタミンB群、カルシウムやリンの吸収をよくし、骨を強くするビタミンD、細胞の老化を防ぐビタミンEなどに加えて、脳細胞を形成する役割をもつ必須脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)、コレステロールや中性脂肪を減らし、脳梗塞や心筋梗塞などの予防に効果の高いEPA(エイコサペンタエン酸)がたっぷり含まれています。アンチエイジング、美容食としても非常に注目できる食品ですので、夏場でなくとも積極的に取り入れたい食品です。
鰻は料理の中でも、とりわけ日本らしい料理として意識される方が多いと思いますが、外国でも鰻を食している国は案外多いものです。アジア諸国はもちろんのこと、欧州のフランスはロワール川やボルドーのジロンド側流域でのワインで煮込んだ料理、スペインでは稚魚を使った料理が多く、バルなどの小皿料理にも鰻料理があります。
私の専門分野であるイタリアでも、北部、とくにポー川の流域では古くから鰻料理が食されているとのことを、ヴェネツィアに住む友人から聞きました。面白いことに、この地方ではクリスマス料理として食べられているそうです。日本のようにさばいて料理するのではなく、筒切りにしていくつかの香辛料と一緒に赤ワインで煮込んだり、焼く、蒸すなどの調理法があるそうですが、なにしろ脂肪分の多い魚なので、ワインとの相性は抜群です。
ヴァルポリチェッラの魅力と鰻料理との楽しみ方
日本の鰻料理店には必ずといっていいほど山椒が置かれていますが、イタリアでは胡椒やハーブが使われます。やはり、食材に対して何がどう作用するのかといった考え方や、美味しい料理にするための工夫は、どの国でも同じようです。
料理とワインの相性を考える時、特に日本料理の場合、私の経験では食材はもちろんですが、むしろ調味料や香辛料にあったワインを選ぶようにしています。
同じ魚でも、焼くのか、蒸すのか、生で食べるのかによって合うワインはかなり違うものです。うな重(蒲焼きでもいいでしょう)の場合、その独特のタレが味を決めています。お店が大事に守り続けている秘伝のタレというものもありますが、基本的には醤油、みりん、酒で調合されています。この濃いタレに合うワインとして昔からおすすめしているワインがヴェネト州のヴァルポリチェッラ・クラシッコです。
ヴァルポリチェッラはヴェネト州で作られる赤ワインで、その代表はアマローネです。スパイス香が豊富で、甘苦いような味わいが特徴です。アルコール度も他のワインと比べてやや高めなので、脂肪分のある鰻をタレで焼く料理にはよく合います。
私の場合、よく知った鰻のお店があり、蒲焼を赤ワインとともにオーダーしたときには、特別に黒胡椒を添えていただくこともあります。日本料理のように、比較的脂肪が少なくさっぱりとした料理の時にワインを飲まれるのであれば、何か油分(オリーブオイル、ごま油、バターなど)とスパイスを足してあげると、ぐっとワインとの相性が高まります。お刺身の場合、普通にお醤油とわさびでお刺身を食べるより、塩とオイルをかける、または醤油とオイルで絡めるなどすると、ワインが面白いほど進みます。
ヴァルポリチェッラは世界でも多くのワイン愛好家に好まれている特異性を持ったワインです。日本の鰻料理と合わせる楽しみをぜひお楽しみください。