
夏に美味しいワイン
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「初夏」にみられる旬の食材をみていますと、彩りも鮮やかで、いかにも元気のでそうな食材が並びます。旬の野菜や魚をいただくときは、何とも言えないわくわくした気分になりますし、目に飛び込んでくる鮮やかさがあるように感じます。 6月、7月、8月に旬を迎える食材をあげてみましょう。まず野菜編。青とうがらし、いんげん、オクラ、かぼちゃ、しし唐、シソ、ズッキーニ、茄子、ミョウガ、モロヘイヤなど。 魚介ですと、鮎、いわし、かじきまぐろ、きす、すずき、たちうお、はも、イカなどがあります。お気づきのように、野菜は青いもの、苦味のあるものが中心になり、魚介は白い身をもった柔らかで軽い魚が多いでしょう。このことから見ても、白ワインが合うなと想像ができますね。
夏の旬の食材を使った料理は、薬膳の理にもかなっており、暑邪や湿邪を払うことにも通じると聞いたことがあります。適度な苦みのある食材には、熱を取ったり、解毒をしたり、お腹の調子を整えたりする作用があるそうです。夏バテ予防としても、また冷房で冷え気味の身体を本来の調子へ戻すためにも、夏の食材を相性のよいワインとともに美味しくいただきたいものです。そこで、今号では、夏の料理に合うワインを紹介したいと思います。
白ワイン、といってもさまざまな産地のものがあり、特徴もそれぞれあります。一般的に、世界的にも広く知られているワインは、「シャルドネ」と「ソーヴィニヨン・ブラン」でしょう。ワインの知識をそんなによく知らないかたでも、どこかで一度は聞いたり、見たりしたことのあるワインだと思います。この二つで比べるのなら、ソーヴィニヨン・ブランのほうが夏の食材に合うのではないでしょうか。夏に向くワインとして最大の理由は、その香りでしょう。特徴は、ハーブ、グレープフルーツ、草原、干し草などが主な香りです。この緑藻や青い野菜を感じる心地よい爽やかな香りが、夏の食材との相性をぐっとあげています。フランスのロワール地方で作られる「サンセール」がもっとも知名度の高いソーヴィニヨン・ブランだと思いますが、昨今ではニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランの評価が上っています。また北イタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州でも100%ソーヴィニヨンを使用したワインを造る生産者が多くあります。この地方では、他にフリウラーノやピノ・ビアンコなど、同様に夏向きの白ワインがありますが、とりわけソーヴィニヨンのハーブ香が好まれていると思います。
ジロラモ・ドリゴという生産者が造るソーヴィニヨンは秀逸で、ロンク・ディ・ユーリというワインはほんの少しだけ樽熟成をかけたワンランクアップのソーヴィニヨンです。 またロワール地方と言えば、ソーヴィニヨン・ブランの他に、シュナン・ブランというブドウ品種で作られる、私の大好きな白ワイン銘柄があります。メーヌ・エ・ロワール、サヴニエールの地にて、ビオディナミの伝道者ともいうべきニコラ・ジョリー氏が、たった7haの土地で単独にAOCを獲得した区画で作りだされる白ワイン「Clos de la Coulée de Serrant」(クロ・ド・ラ・クーレ・ド・セラン)です。
元は、1130年にシトー派の修道院によって開拓された由緒あるブドウ畑。栽培と収穫はすべて馬と手作業のみで行われる完全ビオディナミ農法で、平均樹齢40年のシュナン・ブラン種100%で造られます。私の知るソムリエによると、飲む72時間前に抜栓する、というほどのワインで、高濃度のミネラル感と芳香があり、圧倒的な味の厚みを感じます。
日頃、私は北イタリアの白ワインを好んでおりますが、このフランスワインには敬服しながら、いただいています。このワインと合せてとてもバランスがよいと思った料理はウナギの白焼きです。ウナギの持つ脂分とコクに負けないだけの味わいのポテンシャルがあり、素晴らしいと感じています。 前出のソーヴィニヨン・ブランと同じように夏といえば思い出すのがリースリングです。リースリングはご存じのとおり、ドイツ、オーストリアにおいて最も重要なワインであり、アルザス地方やイタリア北部、またカリフォルニアなどでも栽培される高貴品種のひとつです。白い花(ドイツではリープフラウミルヒ)や花の蜜などの香りが特徴とされていますが、産地によっては蝋 やゴム臭など別の香りの特徴がでることもあります。いずれにしても生き生きとした酸味が持ち味ですので、冷涼な気候の土地での栽培が望ましい品種です。シャルドネやソーヴィニヨン・ブランと決定的に違うところは、このリースリングに樽熟成をかける生産者がほとんどおらず、土壌のポテンシャル、そして品種の力そのものでの味わいをピュアに表現するワインだといえるところでしょう。
イタリアでは、同じリースリングでも、品種名をリースリング・レナーノと呼び、現在ピエモンテ地方のいくつかの生産者がその栽培、醸造に成功しています。 ご紹介するのは、ジョヴァンニ・アルモンドという生産者のランゲ・ビアンコ。リースリング・レナーノ100%で、豊かな果実味とフレッシュな酸味、硬質なミネラル感のハーモニーを堪能できるワインです。気品があり軽やかでありながら、口中にまろやかさ、なめらかさが残る味わいで、 日本料理との相性が抜群によいですが、私は行きつけのお寿司屋さんが造る『鰺の押し寿司』などとの相性がよさそうだと思っています。
まったくの刺身よりも、旨み成分のある昆布などを使った料理がよいのではないでしょうか。 なかなか日本でそのようにはいきませんが、まだ陽射しの残る遅い午後に、冷やした白ワインをゆっくりと飲みながら夕刻を迎えるのがイタリア滞在中の最高の贅沢です。