カルボナーラに一番合うワイン

カルボナーラに一番合うワイン

カルボナーラはローマ料理のひとつ、日本でも1990年代イタリアンレストランが急速に増加したときに広がりポピュラーな料理になりました。Spaghetti alla Carbonaraを日本語訳にするなら「炭火焼き職人のスパゲッティ」とでもいいましょうか。

炭火焼きをする職人が仕事の合間にスパゲッティを作ると炭の粉が落ちてこんな風になる、というわけで付けられた名前だとか。日本では卵黄、生クリーム、ベーコン、黒コショウをつかったレシピが多いようですが、本場ローマでは、生クリームでのばすことは許されず、またベーコンではなくパンチェッタを、特にこだわりのレストランではグアンチャーレを使用しています。

私がカルボナーラに出会ったのは、服飾輸入代理店のオーナ ―が経営していた六本木のイタリアンでした。当時はファッション関係や芸能人が多く出入りするような、流行していたお店です。正確に言うと、その前にも何度か食べていたものの、このレストランのカルボナーラは、卵黄がねっとりとスパゲッティに絡みついていて、初めて食べたときにはその美味しさに大変驚いたもものです。

後になって、フライパンの中で炒める方法は本物のカルボナーラではないと知り、ここのカルボナーラを食べるために何度も足を運んだものです。後にイタリアワインの仕事に就くようになり、イタリアの、本場ローマでカルボナーラを知り、いかにローマの人たちがカルボナーラを郷土の味として大切にしているかを知ったのです。

私における第2のカルボナーラ洗礼は、ローマの友人が開いてくれたホームパーティーで起こりました。彼は、 父親から受け継いだワイナリーを経営しているものの、本職はローマ大学建築家の教授というインテリジェントな男性です。その晩、私を招待するために彼の用意したメニュー、それはルコラとモッツァレッラのサラダとパッケリ・アッラ・カルボナーラだったのです。

パッケリとはバスタの一種で、巨大なマカロニのようなものです。茹で上がるにも時間がかかりますが、口ーマの人気店ではこのパスタを使うシェフが多いのも事実です。卵黄を混ぜた後、スパゲッティのようにそのソースがベタベタになる、もしくは卵によってスパゲッティがお団子のようにくっついてしまうのでうまくいかない場合がありますが、パッケリだとそういうことがなく、非常に洗練されたカルボナーラになります。

彼が惚れ込んでいるカルボナーラは、カルボナーラのランキングでローマーになった "ロショーリ"というレストラン(ワインダイニングとも言うべき店)のレシビ。早速彼の勧めで、ロショーリにカルボナーラを食べに行きました。レストランの入り口にはハムやチーズが並んでいて、それを買うだけのお客様もいます。

カルボナーラのレシピでもっとも重要なもの、それは材料の卵、グアンチャーレ、チーズの3つです。前段で触れたように、カルボナーラに使用する肉はグアンチャーレだとこだわるシェフが多いのですが、グアンチャーレはブタの頬肉を塩漬けしたものです。脂の質が上等、コラーゲンがたっぷりで、熱を入れてもコクがあるのにさっぱりとした食感です。日本ではプロ用の輸入食材商社が少量扱っているのみで、なかなか一般には出回っていません。ロショーリのシェフはグアンチャーレも卵も、トスカーナ産にこだわります。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、豚肉やプロシュット、サラミでイタリア一と言われていろいるのが、トスカーナのチンタ・セネーゼ種、なかでもパオロ・パリジ氏飼育の肉が最高とされていますが、まさに、彼が使うグアンチャーレはパリジ氏のもの、おまけに、卵も彼のファームで放し飼いにされている鶏の卵で、これ以上の材料はありません。チーズはローマ近郊でつくられるペコリーノ・ロマーノという羊乳を使ったチーズです。黒コショウはMARICHAと呼ばれるマレーシア産コショウの一級品。

収穫後24時間以内に手作業で加工するという極めて稀な生産品で、もともとはヴェローナのジャマイカカフェのオーナー、ジャンニ・フラージ氏が世界中から探し出した胡椒の逸品です。「ガンベロ・ロッソ」(エノガストロノミーの評価本)で、ローマ一のカルボナーラに輝いて以来、ローマっ子はもちろん、世界中から彼のカルボナーラを求めてくるお客様で、"ロジョーリ"は常に満席です。

では、カルボナーラにはどんなワインが合うのでしょう。私は自分でも試してみましたし現地のソムリエやシェフの意見も聞いてみましたが、美味しい組み合わせと一番回答の多かった、そして私自身がそう信じているワイン、それはフラスカーティ。フラスカーティとはローマ近郊にある小さな村の名前です。16世紀にはローマの貴族たちがこぞってヴィッラを建てたエリアで、法王クレメンテ8世を輩出したアルドブランディーニ家が建てた宮殿もあり、歴代のローマ法王が避暑に訪れます。そのフラスカーティ村で造られる白ワイン、フラスカーティは、マルヴァジーア・ビアンカ種、グレーコ種、トレッビアーノ・トスカーノ種などのブドウ品種が使用されます。

生産量も多く、イタリアワインの歴史上、最も古いワインのひとつで古代ローマ時代から生産されているそうです。輝く麦わら色を呈し、果実味が豊かでフレッシュ感があり、大変喉越しのよい味わいです。3年以上熟成されたものはスーペリオーレと表示がつきます。どんなに素晴らしい生者のフラスカーティを選んでも、現地なら10ユーロ、レストランでも20ユーロの価格で楽しむことができます。詩人ゲーテは、フラスカーティの酔い心地があまりによいため「楽園にいるようだ」と評したとの言い伝えがあります。

 

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